名古屋高等裁判所金沢支部 平成7年(ネ)78号 判決 1996年11月06日
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
二 控訴人は、被控訴人に対し、金一一九二万〇九六四円及びこれに対する平成三年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを五分し、その三を控訴人の、その二を被控訴人の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
事案の概要は、次に付加・訂正する他、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」記載と同一であるから、これを引用する。
一 原判決二枚目表五行目「一般国道において」とある次に「自動車を運転中に」と付加し、同六行目「被告」とあるのを「福井県知事」と、同七行目「二条とあるのを「二条一項、三条一項」と各改める。
二 原判決三枚目表三行目「被告所有の」とあるのを削除し、同末行「福井県知事」の前に「国の機関としての」と、同裏初行末尾に「(道路法一三条一項、四九条)」と各付加する。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所の認定及び判断は、次に付加・訂正する他、原判決の事実及び理由の「第三 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決八枚目表六行目末尾に「また、乙二二、二三(技術士林洋の鑑定書二通)の路面凍結を否定する記載内容も、本件事故当時の状況とは異なる仮定の数字を含むものであるから採用することはできない。」と付加する。
2 原判決一〇枚目表四行目冒頭から同一一枚目表五行目末尾までを次のとおり改める。
「控訴人は、乙二五(神奈川工科大学機械システム工学科教授安部正人の鑑定書)及び乙二六(科学警察研究所交通部部付主任研究官上山勝の意見書)を根拠として、本件事故は、被控訴人が被控訴人車を運転中制限速度毎時四〇キロメートルの道路を少なくとも時速七〇キロメートルという大幅な制限速度違反の状態で進行し、さらに加速しながら車線変更を行なったためにタイヤがスリップして、自車のコントロールを失うことによって発生したものであり、本件事故の原因は被控訴人の安全運転への配慮に欠けた、通常予想されない危険な運転行為によるものであるから、本件道路の管理について瑕疵はなく、仮に本件事故現場付近の路面が凍結していたとしても本件事故の発生との間に相当因果関係はない旨主張する。しかしながら、右乙号証が推定する被控訴人車がスリップする直前の走行状況については、被控訴人が直線路に至って車線変更をしたことを窺わせるに足る事情は証拠上一切認められないし、また、仮にカーブの出口付近で被控訴人が加速したとしてもその上限について判断されていない右乙号証をもって直ちにこの点の控訴人の主張を採用することはできない。後記三認定の本件事故発生時における被控訴人車の走行速度及び運転方法が危険なものであり、過失相殺の対象になることは当然であるとしても、制限速度が毎時四〇キロメートルの道路において制限速度をかなりの程度上回る速度で走行する車両が多数存在することは一般的に知られるところであり、前記認定によれば本件道路は郊外の比較的見通しの良い幹線道路であり、当時の天候は快晴で積雪もなかったことに照らすと、後記三認定の被控訴人の走行速度及び運転方法をもって、直ちに本件道路で通常予想される交通方法を逸脱した異常なものとまで認めることはできないのであるから、本件道路の管理について瑕疵はないばかりでなく、仮に本件事故現場付近の路面が凍結していたとしても本件事故の発生との間に相当因果関係はないという控訴人の前記主張は採用できない。」
3 原判決一一枚目裏一〇行目冒頭から同一二枚目表四行目「考慮すべきである。」までを次のとおり改める。
「態様及び前掲乙二五、二六及び甲二四を総合考慮すると、被控訴人は被控訴人車を運転して時速七〇キロメートル程度で本件事故現場手前の左カーブに至り、原審において被控訴人が供述するように時速五〇キロメートルまで減速したなどとは認められず、かえってカーブを曲がりきった所で漫然更に加速した結果、スリップし、本件事故に至ったものと認められる。そうすれば、被控訴人の速度違反と事故態様から推認しうるスリップ開始後の適切なハンドル操作を欠いた過失が本件事故の発生に相当程度寄与していることは否定できないから、本件事故の発生についての被控訴人の過失割合は四割を下らないというべきである。」
4 原判決一二枚目表八行目「とは言えないし、」とあるのを「ことを認めるに足る証拠はないし、」と改める。
5 原判決一二枚目裏八行目「退院後、」とあるのを「大橋整形外科病院を退院後、」と、同九行目「大橋整形外科病院」とあるのを「同病院」と、同一〇行目「通院期間」とあるのを「実治療日数」と各改める。
6 原判決一三枚目表三行目「給与所得」とあるのを「給与収入額」と、同七行目「症状固定」とあるのを「後記後遺障害の症状固定」と各改める。
7 原判決一三枚目裏三行目「後遺障害等級」とあるのを「自動車損害賠償保障法施行令二条別表の後遺障害等級(以下「後遺障害等級」という。)」と、同五行目冒頭から同七行目末尾までを「逸失利益の算定の基礎とする年収額については平成五年度賃金センサス新高校卒男子二〇歳から二四歳の平均年収額三二四万〇七〇〇円を用いるべきであると主張した。」と各改め、同九行目「(労働能力喪失率一四%)」及び同末行「なお、」をいずれも削除する。
8 原判決一四枚目表三行目「相当であるが、」とある部分から同裏初行末尾までを次のとおり改める。
「相当である。
証拠(原審被控訴人本人)によれば、被控訴人(昭和四三年七月一一日生)は、本件事故当時満二三歳の健康な男子であったが、本件事故後北陸ジャスコを退職し、平成五年四月に子供服メーカーに入社して営業の仕事をしているが、前記右膝関節の後遺障害により、階段の昇り降りが不自由で、力仕事にも支障が出ていることが認められるが、左額部の線状痕の後遺障害が被控訴人の労働能力に影響を与えていることを認めるに足りる証拠はない。
以上認定の被控訴人の後遺障害の部位、内容、程度に照らすと、被控訴人(前認定の平成五年三月四日の後遺障害の症状固定時で満二四歳)は本件事故による後遺障害によって平均的就労可能年齢である満六七歳までの四三年間にわたり、その労働能力の少なくとも一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。
そこで、右四三年間の被控訴人の労働能力喪失による逸失利益の現価を、確実なところで前認定の被控訴人の平成三年度の年間給与収入額二四一万一八〇三円を基礎として、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると、次の計算式のとおり七六三万四四九〇円を下らない。
2、411、803×0・14×22・6105
=7、634、490」
9 原判決一五枚目表初行冒頭から同四行目末尾までを次のとおり改める。
「右1ないし7認定の被控訴人の損害額合計一七二八万四九四〇円について、前記三認定の被控訴人の過失割合に従って、四割の過失相殺を行なうと、控訴人が被控訴人に対して賠償すべき金額は一〇三七万〇九六四円となる。」
10 原判決一五枚目表九行目及び同裏初行に各「一二〇万円」とあるのをいずれも「一五五万円」と改める。
二 以上のとおりであるから被控訴人の本訴請求は一一九二万〇九六四円及びこれに対する本件事故の日である平成三年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当として棄却すべきであるから、控訴人の本件控訴は一部理由がある。
よって、右と異なる原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 宮城雅之 裁判官 氣賀沢耕一)